最初で最後の愛の話

愛が不安げに僕を見上げる。何かを言いたそうにしていて、でもそれを口にするのは怖い。そのことを僕はもう知っている。

「大丈夫だよ」

愛以外には聞こえないように僕はささやき、愛の小さな手をこっそり握る。

そして、ある決意をした。

成人式を終え愛は専門学校を卒業し、スタイリストとして働き始めた。毎日忙しそうだけど、楽しそうだ。

「夢が叶ってよかったね」

僕がそう言うと、愛は「ありがとう、でもね……」と楽しげな表情から切なげなものに変わる。

「本当の夢は、世界中を旅することなんだ」

「どうして?」

愛はそっと自分の髪をかきあげる。白髪が何本か出てきていた。

「私に残された時間はみんなより少ないから、だから世界を見ておきたいの。世界にはきっと、私の知らない綺麗なものや可愛いものがあふれていると思うから」

その前に髪を染めないとね、と微笑む愛を僕は強く抱きしめていた。愛はとても温かくて、柔らかい。この温もりを先に失ってしまうなんて……。