楽しくてしょうがない。

佐山と会ってから毎日そうだ。

朝、そっと窓から覗いて

後は休み時間に喋って、

そんな毎日が幸せすぎて、






___もう、これで充分だった。








壊したくなかった。












昼休み

佐山はサッカーをしに校庭へ、

わたしはゲームで忙しかった。





「あ、あの、佐々木さん」




後ろから可愛らしい声がした。

ふっと後ろを振りかえると、ちっちゃい女の子が

真っ赤な顔をして立っていた。





「あ、急にごめんね。私のこと…知ってる?」





「…ごめん。わかんない」





「そ、そそうだよね、私、小林 沙耶香。
あのちょっと聞きたいことがあって…」

クラスメイトなのに

名前すら覚えていない私の関心のなさに

自分であきれる。

「なに?」

佐山くんと付き合ってるってほんとうなの?




小林さんは真っ赤な顔で聞いてくる。




私は体が冷たくなるのを感じた。










そういう事か、






もっと少女漫画の主人公みたいに鈍感だったら

楽なのに。






佐山さんはなんとも恋に落ちた顔をしていて、

その顔はよく見ると、女の私でも美しいと

思ってしまった。

「ううん、違うよ、」

私は平然を保ちながらそう言った。

短く切りそろえられた栗色のショートカットに

大きく綺麗な瞳。赤く少しグロスの塗られた唇は

見とれてしまう色だった。

勝ち目なんてない。

ボサボサの長い黒髪とメイクなんかしない

私にとって彼女は正反対だった。

小林さんはほっとしたように、ありがとう

お辞儀をして行ってしまった。

すると、数人の友達が、良かったねーと彼女に

駆け寄った。

「私、頑張る!」

小林さんは友達にそう言って健気な笑顔を見せた

顔も可愛い、性格も良い。友達もたくさんいる。

人生において全てが負けている気がして、

自分が嫌になりそうだった。