『お嬢さんを僕に下さい!』

ご両親を前に、土下座する俺に

「………………………桜はそれで幸せになるのか?」と

俺にではなく、桜に質問するお父さん。

「はい。」

桜の返事に頷くと………

改めて俺に向き直して

「……………宜しくお願いします。」と頭を下げられた。

………………これでやっと…………桜を手に入れられる。

図書室の奥で寝たふりをしていたのが…………

今から五年前。

…………………………長かったなぁ。

物思いにふけている俺に

「先日お願いしましたが。
桜は本当に、社会の常識に疎く
家庭に入るには心配なことばかりです。
大事に育てた一人娘です。
どうかよろしくお願いします。」となんとも言えないお父さんの表情。

娘をもつ父親は…………本当にこんな顔になるのだと思ってしまう。

「はい。
私の命をかけて…………大切にします。」

年の離れた、教師の俺に。

反対することなく、託してくれるご両親に。

せめて少しでも安心して欲しくて、言葉にした。

………………………クスクスクス。

横に座るお母さんの笑い声。

視線を向ける俺に

「ごめんなさいね。
笑ったりして……………。
私の時を思い出していたから。
この人もね、同じ事を言ってくれたの。
『命をかけて守ります。』って。
でも、現実には……命をかけて守る程の事なんてなかったけど。
桜もお父さんと似た人を選んだんだなぁ~って思ったら
小さい頃『お父さんと結婚する』って言ってたことが思い出されたの。」

いい話だ。

いずれ俺も父親になったら

『パパと結婚する』と言って欲しいし。

『お嬢さんを下さい』と言われた時には…………

『守ってもらうような事はなかった』と言って

幸せそうに隣で………桜に笑っていて欲しいと思う。

「今の言葉…………忘れずに幸せにします。」

もう一度頭を下げる俺に

「うん」とだけ答えて、頷いてくれた。