深海で彷徨う人魚が一人

─いつから私はココにいるの?
思い出せない。

闇雲に泳ぎ、疲れ果てた人魚は眠りにおちた。

微睡みの中。
彼女は地上にいた。

(どうして?)
少女は、ただただ哀しみに沈んでいた。

(「─アイシテル」という言葉は嘘だったの?)

少女は涙でボロボロになった顔を覆う。
これ以上、なにも見たくないというように・・・・・・。

--信じたくない!!

(待って!行かないで!)

暗闇の中、自分に背を向ける愛しい人に声なき声で叫ぶ。

溢れる涙を波がさらってゆく。

(あぁそうか・・・・・・)

─-思い出した。

「私は人間だったのね」

自分の元を去った恋人。
現実を受け止めきれず私は、海に身を投げた。

あれから
ずっと彷徨っている。

(ばかね。今もあの人を愛してるなんて)

人魚は一雫(ひとしずく)、涙を流す。
行くべき場所も還る場所もない。
喪うものなどなにもない。

人魚は再び海を彷徨うべく、波にたなびく美しいヒレを優雅に踊らせた。



村で一番美しいと評判の娘が海に身を沈めて暫くたった頃
入り江で時折、娘がすすり泣く声が聞こえると噂がたったそうだ。