キーンコーン、カーンコーン。
最後の授業である六限目も終わって、私のクラスでは終礼が始まっていた。
急いで帰りの用意をしていると、ふと視界の隅にある人の席が映った。私は、その人の席を見た。それは大谷くんの席だった。
そういえば、お昼から大谷くんを見ていない。席や後ろのロッカーにも荷物はなく、早退した様子だった。
どうしたんだろ……。大丈夫かな…。
そんなことを思っていたら、雨の音が耳に入ってきた。
ふと外を見る。雨粒は大きくないけれど、降ってる量は多かった。
「雨に打たれてないといいけど」
そう呟いた直後、「起立」という日直の声が聞こえて、私は急いで立ち上がった。
クラスメイトたちと揃って「さよなら」と告げたあと、当たり前とでも言うように宇星がやって来た。
「ごめん、結明。今日は用事があるから先に帰るね」
「うん。分かった」
てっきり一緒に帰ろうと言われるのだろうと思って、身構えていた。けれど、意味は無かったよう。彼女は言い終わったとたん、そそくさと帰って行った。
その様子を見送ってから、私は荷物を持ち一階にある下駄箱へと向かった。
靴をはき替えて外に出てみると、思った通りで雨は止んでいなかった。
「どうしよ。傘、持ってない」
そんなことを呟いていたら、通りすがりの人とぶつかってしまった。
「ごめんなさい」
と言おうとしたけれど、言う間もなくぶつかった相手は去っていった。
ふと周りを見ると、たくさんの生徒がいて各自、部活に向かったり、下校したりしていた。
雨が止むまで雨宿りしたいけど、下足から出たところに私がいたら邪魔だよね。
他に雨宿りできる場所はないかと探していたら、校舎裏の庭が見えた。
そこには非常口なのか扉があって、屋根もあった。私はあそこだと思い、外の渡り廊下を通って校舎裏へと向かった。
扉の前にある小さな段差に座って、雨が止むのを待っていると庭に生える花が目にとまった。見たこともない花だったけど、とても綺麗だった。
朝顔に似てるけど、少し違う。何だろうと思って、その花を見ていたら。
「その花が好きなの?」
と問いかける声が聞こえた。私は花を見つめてから、そっと答えた。
「うん。だって……」
すごく綺麗だからと言いたかったけれど、声がする方を見た瞬間、私は声が出なくなった。
理由は祭りで売っているような狐のお面をかぶっていたから。
降りしきる雨の中にポツンと立ち尽くして、私のことを見ていた。
年齢は私と同じくらい。声からして男の子だろう。でも、パジャマ姿でスニーカーをはいていた。
どうしてここに居るの?どうしてそんな格好なの?
聞きたいことは沢山あるのに、聞いたのは別のことだった。