「この人の身元は？」

聖が訊ねると、原刑事が手帳を開ける。

「落ちていた身分証から、有働海彦（うどううみひこ）さんだと判明しました。××会社に勤めていたのですが、二ヶ月ほど前から行方がわからなくなっていたという。

「ご家族にはさっき連絡をしました」

原刑事がそう言い、藍たちは解剖を始める前に黙とうをする。藍がゆっくりと目を開いた。

「午後二時四十分、解剖を始めます」

藍はメスを手にする。大河たちの顔にも緊張が生まれた。

まず全身を観察する。暴力を受けた痕などは見られない。その時、「これ何だ？」と聖が有働海彦の手のひらを全員に見せた。全員の視線が集まる。

有働海彦の手のひらには、黒いペンで大きく「A」と書かれていた。藍たちは首を傾げる。

「ダイイングメッセージ？」

朝子が首を傾げると、大河が「ご遺体には暴力の痕や殺される恐怖の表情はありませんよ？」と言う。

「とりあえず、解剖を進めましょう。そうすれば何かわかるはず」