『父さんは、もう長くない。末期の癌で数ヶ月生 きられるかわからないらしい。このことを話す べきか迷ったけど、三人に迷惑をかけたくない
 。いや、三人がこの手紙を見つけて悲しんでい たらダメなのか。でも、父さんのことを忘れて 幸せになってほしいんだ。父さんは癌と診断さ れてしまったけど、とても幸せだ。こうして手 紙を残したい人がいることが嬉しいんだ。真由 美、俺と結婚してくれて俺を支えてくれてあり がとう。これから先、一人にしてしまってすま ない。周、裕、父さんの子どもとして生まれて くれてありがとう。父さんはこんな素敵な家族 がいて本当に幸せだ。笑いが絶えない家庭でよ かった。ありがとう。幸せになってくれ』

読んでいた藍の目からも、ひとすじの涙がこぼれていく。大切な人からの手紙、これほど胸を締め付けるものはない。

有働海彦は、家族に迷惑をかけることを恐れて身を隠した。そして見つからないうちに自ら死を選んだ。彼なりの優しさだったのだろう。脆くて優しい最期の愛だ。

書斎に、三人の泣き声が響いた。