死者の幸福〜最期のメッセージ〜

藍はそう言い、有働海彦の体にメスを入れる。そして内臓を目にした時、藍たちは言葉を失った。

「……この人……」

英二が藍を見つめ、言いにくそうに口を動かす。聖が代わりに言った。

「……ああ、癌だ。それも末期であちこちに転移している」

有働海彦の体の至るところに癌があった。彼に残された時間は、生きていたとしても一年もなかったかもしれない。予想外のことに、解剖室の空気が一段と重くなる。

胃の内容物を取り出し、血液も調べることにした。死因は今のところわからない。他殺なのか、自殺なのかもわからない。

「これからもっと調べないとね」

藍はそう言い、解剖はひとまず終わった。



藍たちが解剖室を出ると、所長室から女性一人と二人の男の子が出てくるところだった。男の子の一人は高校の制服を着ていて、もう一人はランドセルを背負っている。

「……主人がこちらにいると聞きました」

四十代とおぼしき女性が目に涙を浮かべ、藍たちを見つめて言う。原刑事が訊ねた。

「海彦さんのご家族の方ですか?」

「はい。妻の真由美(まゆみ)です。この二人は息子の周(あまね)と裕(ゆう)です」