賑やかな校内を出て、道行く人の少ない土手上の道へと差し掛かると、今まで無言で少し前を歩いていた幸村くんが不意に口を開いた。

「何か言いたげだな。意見があるなら聞くけど?」
「意見って…。別に、そんなんじゃないけど…」
「けど?」

口ごもった私をチラリと振り返りながら先を促してくる。

「随分な騒ぎだったなぁって。なんか疲れちゃった…」
「ハハハ、確かにな」

教室を出てからも自分たちは何だかんだ注目を浴びていたようだった。
廊下に出ると、何故だか彼のクラスメイトたちが噂を聞きつけたのか数人集まっていて、ちょっとした騒ぎになってしまった程だ。幸村くん本人はどこ吹く風といった感じでかわしていたけれど。
別に深い意味などはなく、きっと何となくで自分を誘っただけに違いないのに、あんな風に揶揄(からか)われたり詮索されてしまっては、面倒に思ったり後悔したりしてるんじゃないかな…とか、少しだけ憂鬱な気持ちになってしまった。それを私が気にしても仕方のないことなのだけど。
それを遠回しに伝えると、「あんたには迷惑だったか?…だとしたら悪かったな」なんて逆に平然と返されてしまった。

「別に言いたい奴には何でも言わせておけばいいんだよ。こっちは何もやましいことなんてないんだし。どう弁解したところで結局は面白(おもしろ)おかしく話題に出されるのは目に見えてるからな」
「そう、だね…」

他人の言葉を気にしない、振り回されない強さ。それは自分にはないもので、素直に凄いなぁと思う。
こういう人は、ある意味心が広いのかも知れない。私にも、それくらいの度量があれば、こんなにも歪まなかったのかも、とか思ってしまう。