授業終了後。
まるで当然のように「帰るぞー」とか言いながら教室まで迎えに現れた彼に、私は素で驚いていた。勿論、そんな約束はしていなかったし、昨日の今日でそういう行動に出るとは思ってもみなかったのだ。
そして、面食らっていたのは自分だけではなかったようだ。

ざわつく教室内。
向けられる好奇の目。

確かに、普段誰かと一緒に行動することが殆どない自分の元に、突然隣のクラスの男子が平然と、それも妙に友好的な態度で迎えに来たとあれば、当然何らかの疑問や興味を持たれてしまうのは仕方のないことなのかも知れない。

「あれって隣のクラスの幸村君、だよね?」
「何で幸村が月岡さんと?」
「あの二人って知り合いだったんだ?」
「意外な組み合わせだよな?」
「一緒に帰る仲って…。え?どういうこと?」
「もしかして付き合ってる、とか?」
「マジか…」

心の呟きなどではなく、普通にコソコソと会話が耳に届いてくる。敢えて聞こえるように言っている人も中にはいるようだった。

(別に何を言われようと私は関係ないけど…)

「どういうつもり?」と口には出さず、窓側の席の傍までやって来た幸村くんを無言で見上げると。
彼は特に気にする様子もなく、

「どうせ方向一緒なんだし、問題ないだろ?」

なんて肩をすくめながら言った。
まあ、良いけど。
あまり周囲の反応なんかを気にしないタイプなんだろう。確かに自分たちに負い目なんか何もないし、周りにとやかく言われるようなことでもないのだから関係ないのだけど。

その、どんな視線を向けられようとも動じない堂々とした態度には、少しだけ好感が持てた。