心がささやいている

まだ月岡咲夜という人物の、人となりについて詳しいことは何一つ分かってはいないが、とりあえず嫌なイメージは湧かなかったことで颯太的には気が済んだというか、彼女に対しての興味も落ち着いてしまった感じだった。

(さて、どうするかな…)

このまま彼女について行っても、駅前の交番を目指すとなると随分と遠回りをすることになる。それに、再び強引に話し掛けようものなら余計に不信感を与えてしまいそうだ。

(ここは大人しく辰兄のトコヘ先に顔を出しておくか…)

とりあえず、暫くは方向が同じなので後ろをついて歩くことにはなるが、それは致し方ないだろう。
颯太は止めていた足をゆっくりと踏み出した。

と、その時だった。

十数メートル先を歩く月岡咲夜が不意に再び足を止めるのが見えた。そうして暫く立ち止まっていると、今度はゆっくりと川の方へと視線を向けている。

(何をしているんだ?…何かあるのか?)

その視線の先に何があるのか気になった颯太は、川沿いを見下ろすように道の端に寄ると身を乗り出した。すると、丁度土手の中間辺りに位置する草むらに小学生くらいの男児が独り、こちらに背を向ける形で座っているのが見えた。その小さな背中以外に気になるようなものは特に何もないように見える。
だが、そんな間にも彼女がそちらへと足を向け、草で覆われた土手を下りて行くのが見えた。

知り合いの子でも居たんだろうか?そんなことを考えながらも、颯太も自然とその場に足を止めると、彼女の次の行動を土手上の道から遠く眺めるのだった。