「ふうん?何て?」

『運命の彼女』の部分は否定しないんだな?とか思いつつ。名前を聞いてもどうせ知りはしないだろうし興味もないが、とりあえず話の流れで聞き返した。

「月岡咲夜さんっていうんだ」
「ほぉー」
「素敵な名前だろ?」
「うーん、まぁ…。別に名前は…」

どうでもいいけど…という言葉を飲み込んで。そんなにありふれた名でもないかと聞き流しかけたところで、ふと何かが引っ掛かった。

「あれ…?つき、おか?…つきおか何て?」
「咲夜さんだよ、さ・や」
「…あれ?どっかで…」

何となく最近耳にしたことがあるようなその名に、颯太が記憶を手繰っていると辰臣が突然思い出したというように手を打った。

「そうだっ。彼女、お前とおんなじF高の制服着てたんだよ」
「F高の…?」

そこまで聞いて思い出した。

「あー…もしかしたら同じ学年で、そんな名前の女子がいたかも」
「へぇー?そうだったのかっ」

最近、クラスの男ども数人が集まって『学内で可愛いコ』の話題に花を咲かせていた。俺は横で聞いてただけだったけど、皆がこぞって名を挙げていた噂の人物がいたのだ。それが、隣のクラスの月岡咲夜(さや)。その人だった。

「もしかして颯太、彼女のこと知ってるのかっ?」
「いや、クラス違うし名前聞いたことがあるってだけだな」
「そうか。お前にも紹介するよ。実は、明日寄ってもらうことになってるんだ」

満足げに笑う辰臣に。颯太は心底驚いた声をあげた。

「はっ?なに?もう会う約束取り付けてんのっ?」
「ばーか、別にそんなんじゃないよ。良かったら遊びに来てって言っただけ。彼女動物好きそうだったし」

そうは言いつつも。珍しく積極的な行動を見せる辰臣の様子に、颯太は俄然その人物に興味が湧いたのだった。