「僕がこのコを引き取るよ」

既に心は決まっていた。

「あの二人が、このコの飼い主なんだろう?」

少女へと向き直ると、彼女は哀し気な瞳を向けて小さく頷いた。
それに対して、辰臣も頷き返すと。

「このコは僕が大切に育てる。守る。約束するよ。あんな酷い飼い主の元へはもう返せないよ」
「おにいちゃん…」

本当のところ、それが普通に許されるのかは分からないけれど。それでも実際、躾と称して暴力を振るうような輩に動物を飼う資格なんかない筈だ。もしも、相手側から訴えられるようなことがあったとしても徹底抗戦してやるつもりだ。それくらいは覚悟の上だった。
すると、少女は不安げな表情からふわりと微笑みを浮かべると「ありがと」と呟いて、そして僕の腕の中で見上げている子犬に「よかったね」と声を掛けた。その笑顔はどこか儚くて。でも、とても優しいものだった。

そのあと、彼女とはその公園で別れた。既に陽も暮れ掛けた薄暗い中だったので、送っていこうか?と声を掛けたのだが、「なれてるからだいじょうぶ」と手を振りながら駆けて行ってしまった。
去り際、彼女は笑ってはいたけれど。そのどこか寂し気な小さな後ろ姿がずっと忘れられなかった。



「そう。あの日、彼女と出会えたからこそ、今の僕たちがいるんだ。彼女が僕とランボーを引き合わせてくれたんだよ」

目をキラキラさせて当時のことを語る辰臣に。颯太は軽く肩をすくめた。既にこの話題は耳タコ状態なのだ。

「わかったわかった。で?その運命の彼女とは連絡先とか交換したの?」
「へっ?ああ、連絡先までは流石に。でも、名前は聞いたよ」