心がささやいている

それに何よりも、その少女の膝の上に鎮座しているものに目が行った。それは、まさに探していたあの子犬にそっくりなふわふわの毛並み、色。尻尾、そのフォルム。顔はこちらからは見えなかったが、もう何日も一緒に過ごした仲だ。見間違う筈もなかった。

辰臣は迷うことなく公園の敷地内へと足を踏み入れると、ゆっくりと少女に近づいて行った。警戒されないように少し遠めの距離から声を掛ける。

「こんにちは」

少女は特に驚いた様子も見せず、こちらに視線を向けた。肩を越えた長いサラサラの美しい髪がさらりと横になびく。
普通に考えたら高校生の男が小学生くらいの見ず知らずの少女に声を掛ける図というのは、ものすごく怪しい感じがしなくもないが、こればっかりは仕方なかった。

「突然ごめんねっ。実は僕、そのコをずっと探してたんだ」

子犬を指さしながら正直に簡潔に分かりやすく話すと、少女は真顔で首を傾げると口を開いた。

「おにいちゃん、このコのかいぬし?」
「ううん、僕は飼い主ではないんだ。ただ、怪我してたところを保護して…。怪我も良くなってきたし、飼い主さんが見つかったから帰してあげるところだったんだよ」
「ふぅん」

少女は視線を膝の上に抱えている子犬に戻すと、じっと見つめながら片手でそっと子犬の頭を撫でた。

「そう…。このおにいちゃんはわるくないんだね」

小さな声でひとり呟く。

「…え?」
「でも…」
「?」
「このコをつれて行かないでほしいの」

少女は子犬を小さな両手に抱えて立ち上がると、宣言するように言った。