正直で素直なところは辰臣の人物像を語る上で、とても大きな魅力の一つだ。だが、その分夢見がちというか、少々子供っぽい部分があることも否定出来なかったりする。それを『大人になっても少年の心を忘れない』などと言ってしまえば聞こえは良いのだろうが、颯太自身はわりと現実的な考えの持ち主なので、時々辰臣の発想にはついていけないこともあったりする。

その少女と犬のランボーが通じ合ってるという話も、彼の夢見がちな部分故のことだろうと颯太は話半分に聞いていた。だが、辰臣はその少女のことを随分と心酔しきっている様子だ。

「やっぱり彼女は、動物の気持ちが分かるのかも知れないっ」

瞳をキラキラさせながら力説している二十六歳に、颯太は思わず苦笑を浮かべた。
(ま…辰兄(たつにい)は、そのコにまた会えたことが嬉しくて仕方ないんだろーけどな)
昔、その少女との出会いが当時の辰臣の人生設計に大きな変化を与えたのだから。


それは、辰臣がまだ高校生だった頃の話。


辰臣は昔から動物が大好きな少年だった。
幼少期から将来の夢は『動物のお医者さんになること』だとブレることはなかった。
そして、十も離れた幼い颯太を親以上に手懐けてしまう面倒見の良さ、困った者を放っておけない人の良さなどは折り紙付きである。

そんな辰臣が高校生になったある日のこと。
学校帰りに住宅街をひとり歩いていると、電柱の陰に何か小さなものが丸まっているのに気付いた。
気になってそっと覗き込むと、それは未だ小さな子犬で、随分と衰弱した様子で身体を震わせていた。