心がささやいている

遠目ながらにも何となくそのワンコと視線を合わせながら、その様子を眺めていると。
その犬はあっという間に咲夜の傍まで走り寄ってくると、今度は足を止めた咲夜の周りをぐるぐると回りだした。

(えーっと…。何か…喜んでる?)

小さくとび跳ねるように自分の周囲を走り回ってるワンコの心の声に耳を傾けようと僅かに屈み掛けた時だった。

「わっ!待ってっ」

長さのあるリードを引きずりながら周囲を同方向に回っている為、それが咲夜の足に絡まりだしたのだ。

「ちょっ…ストップ!ストップ!!」

咲夜は慌ててしゃがみ込み、周囲を回っている犬の動きを何とか止めると、巻き付いたリードを除けながら再び走り出さないように、思ったよりも小柄な身体を両手で目の前へと抱え上げた。

「セーフ…」

もう少し気付くのが遅かったら足にリードが絡みついてその場に尻餅をついてしまうところだった。でも、ワンコは当然こちらの状況など知る由もなく、舌を出しながら小さなふわふわの尻尾をパタパタと振っている。

(あれ…?このコ…。何処かで…)

ワンコからは「久し振り」だとか再会を喜んでいるような『声』がする。勿論、その言葉がそのまま聞こえている訳ではないのだけれど。感覚的なものだ。

「あ…。もしかして…」

一瞬記憶の中に同じような毛色の子犬がいたことを思い出して思わず目の前のワンコに話し掛けようとした、その時だった。


「あっ!すみませーんっ!!それ、うちのコなんですっ!!」


そう言って先程この犬が駆けて来た方から、今度は一人の男性が駆け寄って来た。