心がささやいている

だが、咲夜の心配をよそに男は、ひょいひょいと手慣れた様子で木に登り始めると、あっと言う間に太めの枝の上に乗り、

「じゃあ、その子をこっちに」

と、咲夜を見下ろしながら片手を伸ばしてきた。咲夜は指示通りに男の下まで行くと、両手でヒナをその手の中へとそっと渡す。

「ありがと」

男はにっこり笑顔を見せると、手の中のヒナを「よしよし、大丈夫だからね」と、声を掛けながら今度は枝の上にゆっくりと立ち上がった。片手にヒナを抱えながらのその体勢は、高さも結構あるので落ちてしまわないか見ていてヒヤヒヤしたが、下手に声を掛けて動揺させてしまっても怖いので、咲夜は黙って男の行動を見守ることにした。
だが、やはり慣れた様子で男は木の上を移動すると、簡単にヒナを巣に戻すことに成功したのだった。

「すごい…」

思わず感嘆の言葉が口から出た。ちょっぴり『どんくさそう』だと思ってしまった自分を心から反省する。
帰りも危なげなくスイスイと降りて来た男は、咲夜の目の前に飛び降りると再び笑顔を見せた。

「ありがとうね。君のお陰であの子は無事親元へ戻れたよ。通常、鳥の雛が巣の下へ落ちていた時は、あまり触っちゃいけないって言われているんだけど…。今回の場合は本当にまだ小さな雛だったからね。巣に返してあげられて良かったと思う」

目の前の青年は巣を見上げながら満足げに言った。
先程まで周囲を飛んでいた親鳥も巣へと戻ったらしく、もう『声』は聞こえてこなかった。

(…良かった)

咲夜は、そっと胸を撫で下ろした。