この日、美咲は出張で
家に帰るのが遅くなった。
「ただいま」
いつもだったら
返事がかえってくるのだが、
この日はやけに静かだった。
それに、玄関に見慣れない
女物の靴があるのが気になっていた。
美咲は、部屋を見て回っていた。
すると、寝室で邦雄が
義姉である高見沢麻子と
裸で抱き合っていたのだ。
突然のことにまともな思考がないまま、
美咲は、その場を立ち去った。
信じられない。
夫が、実の姉と関係を持っていたなんて。
それじゃ、今までの優しさは
いったいなんだったの?
美咲は、どこまで歩いただろう?
気がつけば、真人の
マンションまで来ていた。
しばらく、公園で涙を流していた。
実の姉とはいえ、妻への裏切りは大きい。
美咲は、裏切られた気持ちに
悔しくてたまらなかった。
そう思うと、涙がボロボロこぼれていた。
そんな時だった。
美咲の周りを、ガラの悪い人間たちが
取り囲んでいたのは…。
美咲は、恐怖を感じて逃げていた。
そこで、ジョギングをしていた
真人が美咲を見つけたのだ。
「義姉さん?」
真人は驚いていたが、
美咲を助けなければと公園に向かった。
「何してんだ!」
真人はチンピラたちをにらみ、
美咲を抱きしめていた。
「慰めようとしたんだよ。
彼女を泣かすなよ、怖いお兄さん」
チンピラが去っても美咲は、
震えが止まらなかった。
「義姉さん、こんな夜遅くにどうしたの?
兄貴とけんかをしたの?
話を聞いてやるから、
オレの部屋に来いよ。
ここじゃ寒いし、風邪をひくから」
美咲は、素直に
真人の言うとおりにした。
真人は、美咲をソファーに座らせると
コーヒーを持ってきた。
「あったかい」
「よかった、落ち着いて。
一時は、どうなるかとヒヤヒヤしたよ。
ところで義姉さん、
いったい何があったの?
夫婦ゲンカをしたの?」
そこで美咲は、真人に
邦雄と麻子の関係を話したのだ。
それを聞いた真人は、
驚きを隠せなかった。
「義姉さん、今の話が
本当なら許せないことだよ。
兄貴は、義姉さんを裏切ったんだから」
「あたしも信じられなかったの。
邦雄に女がいたなんて。
それも、相手が実の姉さんだなんて
普通考えられないでしょ?」
「それはそうだよ。姉貴と関係を
持っているなんて考えられないよ」
真人は、邦雄に対して美咲への裏切りに
怒りを隠しきれなかった。
自分が守って幸せにしてやると
言ったのに美咲を裏切って、
姉の麻子と関係を持つなんて
許せないことだった。
「義姉さん、夜が
更けてくるから送るよ。
さっきみたいなことに
なったら大変だからね。
それから、何か悩みがあったら
いつでも話してよ。
オレは、義姉さんの味方でいたいから」
「ありがとう、真人さん」
本当は、愛していると
言葉に出したかったが、
真人は、それをぐっと飲みこんでいた。
美咲を見るたびに思いはつのるばかりで、
できるなら、兄から奪ってしまいたい
という衝動に駆られていたからだ。
自分なら愛する女を悲しませたりしない。
本当に愛しているなら
幸せにしてやりたい。
真人は、今美咲を悲しませた
邦雄が許せなかった。