結婚式から5カ月が過ぎて、
美咲は臨月を迎えていた。
今では、子供が産まれるのが
楽しみになっていた。
源蔵も、静子も、
初めての孫が産まれるのを
楽しみしている。
家族みんなに喜んでもらえて
おなかの子供は幸せだろう。
美咲と真人は、産まれてくる
子供の名前をたくさん考えていた。
ところが、候補の名前が見つからない。
それを見かねた源蔵が真人に言った。
「高見沢家の血を引く孫だ。
名前は私が決める」
「おやじが、そう言うならかまわないよ。
たいてい、家の家長が決めるのが
高見沢家のしきたりだって、
代々受け継がれてきたんだからな。
だけど、オレの時は
じいさんが決めたの?」
「おまえの名前は私が決めた。
代々、家長が名前を決めるのは
長男が生まれた時だ。
邦雄は破滅をしたが、
今は真人おまえがいる。
私の跡を継げとは強制しない。
今のままの生き方をしていけ。
そして、家族をもって幸せに暮らせ」
「ありがとう、おやじ。
兄貴が亡くなってから、
家を継ぐのか悩んでいたんだ。
今の教師の仕事を捨てたくない。
どうしたらいいかと思ったんだ」
そう邦雄は、美咲と離婚をした後に
飛び降り自殺をしたのだ。
真人は、今でも邦雄が無言の
帰宅をした時のことを忘れていなかった。
それは、麻子と別れて美咲と夫婦に戻る
夢を絶たれて絶望しての自殺だったのだ。
この時、真人と源蔵が
邦雄の自殺した現場に行った。
その時に邦雄が真人に宛てた
遺書を見つけたのだ。
その遺書に
「真人、美咲を頼む」と書いてあった。
邦雄は、家族だけで
ひっそりと荼毘に付された。
この時真人は美咲に、
邦雄の死は病死だと伝えていた。
これが、邦雄の最期の思いと
受け取ったからだった。
「真人、邦雄の死は
美咲さんに話していないようだな」
「このまま病死だと告げた方が、
おなかの子に悪影響を与えないと
思ったんだ。前の時のように
流産をしてほしくない。
今度は、無事に産まれてほしいと
願っているんだ」
「そうか、おまえが
そう言うならそうしよう。
それよりも無事に
産まれてほしいものだな」
そして源蔵と真人が話をしている
ところに、執事が来てこう言った。
「旦那様、若奥さまが産気づかれました」
「すぐに、助産師を呼べ!
お湯を沸かすように支度をしておけ」
源蔵は、執事に細かい指示を出して
出産の準備をするように手配した。
そして、いよいよ美咲が
子供を産もうとしていた。