それは、結婚式の前日のことだった。
この時、真人のマンションに
あかりがついていた。
怪しいと思った真人は
自分の部屋のドアを開けた。
鍵が開いている。
美咲が帰ってきたのだろうか?
「真人、久しぶり」
「瑠衣子、どうしてここにいるんだ?
おまえとは、2年前に切れたはずだろ?」
「あんな別れ方で私が納得いくと
思っているの?好きな女が
忘れられないなんて」
「おまえが、オレの部屋に
置いてある荷物を引き取りに
来たのなら、さっさと帰ってくれ。
それから、二度とオレの前に顔を出すな」
「ただいま」
「美咲、帰ってきたのか」
「何か、あったの?」
「昔の荷物を処分しているところだ。
しばらく奈津子の店に行ってくれるか?」
「誰?恋人でもできたの?会わせてよ」
「うるさい!さっさと帰れ!
迷惑なんだよ!」
「真人さん、何があったの?」
「オレのことは心配するな。
今、ここにいたら胎教に悪い。
早く奈津子のところに行け!」
「ちょっと、隠すことはないでしょう。
あんたがつきあっている恋人が見たいわ」
そう言うと瑠衣子は、
美咲のいる玄関に行った。
「美咲、あんただったの?
不倫にならないの?あんたたちは…」
「美咲は、兄貴と別れたんだよ。
今は、オレの妻だ。
子供も、もうすぐ産まれる。
オレたちは、夫婦なんだよ。
もう昔とは違う世界にいるんだ。
瑠衣子、オレのことは忘れてくれ」
「うそでしょ?
子供がいるなんて
何かの間違いでしょ?
美咲、あんたは昔から
真人を追いかけていた。
私と真人がつきあっていても、
こっそりバスケの練習を見ていた。
どうしてなの?
どうして、私の欲しいものを
奪っていくの?」
「瑠衣子、あなたは
私が真人さんを奪ったと
思っているようだけどそれは違う。
だって、真人さんは
自然と私を愛してくれた。
高見沢家の御曹司と
結婚をすることがあなたの夢。
あなたは、真人さんを
愛していなかったのよ」
美咲の言葉に腹を立てた瑠衣子は、
美咲の頬をたたいていた。
それを見た真人は瑠衣子を叱りつけた。
「美咲に危害を加えるなら許さないぞ!
美咲を守るためなら、
オレは鬼にでもなってやる。
今すぐ、オレの部屋の鍵を返せ!
それから、部屋にある
荷物を全部持っていけ!
そして、二度と
オレたちの前に現れるな!」
愛する者を守るなら鬼にでもなれる。
真人の強い言葉に瑠衣子は、
自分の関係は終わったことを悟った。
そして、自分の荷物をまとめて
宅配便で送るように手配した。
最後の荷物を入れる時に瑠衣子は言った。
「私ね、明日からアメリカ勤務になるの。
最後に一目だけ真人に会いたかったの」
そして宅配便の車が来て、
瑠衣子の荷物は宅配便に詰め込まれた。
「さようなら、真人。美咲と幸せにね」
そう言うと瑠衣子は静かに部屋を去った。
「美咲、すまん。
中途半端な別れ方をしたばかりに
嫌な思いをさせてしまったな。
だけど、明日は結婚式だ。
これで、正式に夫婦になれる。
おなかの子供も安定期に入っているから、
今度は無事に産まれるよ。
去年、死んでしまった子供の分まで
愛情を注いで大切に守っていくよ。
ほらっ、もう泣くな。
悲しい涙はおしまいにしろよ」
真人はそう言うと美咲を抱きしめていた。
涙を流す美咲の髪をなでて
何度も抱きしめた。
「これからは涙を流させない。
おまえを必ず幸せにしてやる。
悲しい涙は今日でおしまい。
これからは楽しいことを考えていこう」
「真人さん、ありがとう」
美咲は、うれしかった。
真人に恋をしてかなわないと
諦めていたが、ようやく
実を結ぼうとしている。
美咲は、その幸せをかみしめていた。