源蔵が真人に言った言葉に
怒りを覚えた麻子は言った。
「お父様、真人は美咲さんと
不倫をしていたのよ。
許せると思っているの?
これは、高見沢家の恥よ。
これを機会に美咲さんと
邦雄に離婚をしてもらって」
「麻子、おまえは自分のしたことを
棚に上げるつもりか?
おまえは、美咲さんと
結婚する前から邦雄と関係を
持っていたそうじゃないか。
これは、高見沢家の
名誉を傷つけることだ」
「あたしは、邦雄を愛しているのよ」
「麻子、おまえは遠ざけたほうがいい。
このままじゃ、邦雄に悪影響を及ぼす。
麻子、おまえはイタリアの別荘で暮らせ。
あそこなら、邦雄を忘れて
静かに暮らせる。
飛行機の手配と当面の金は私が準備する。
準備ができたらイタリアに行け。
これは命令だ、いいな」
源蔵の厳しい言葉に麻子は肩を落とした。
高見沢家にとって、
父親の意見は絶対に服従。
逆らうことは、許されないのだ。
この後、麻子は涙を流して号泣していた。
それは、邦雄に会えない寂しさで
麻子は悲しみで苦しんでいた。
もう、邦雄に会えない。
どうして、姉と弟に
生まれてきたのだろうと
麻子は、自分の運命を呪っていた。
そして、麻子は一人で
高見沢家の屋敷に戻っていた。
もう、この家に戻ることはない。
この家に戻っても邦雄はいない。
「お嬢さま、イタリアに行く
飛行機の切符がとれたそうです」
「いよいよ、この屋敷とお別れなのね」
「お嬢さま、イタリアで
ごゆっくりとお過ごしくださいませ。
当分の間お暮しになるお金を
旦那様がご用意いたします。
このまま、黙って出発してくださいませ」
思い出の残った家を離れて暮らすのは、
麻子にとって悲しい選択であった。
しかし、父である源蔵の怒りが
解けるまではイタリアで暮らすしかない。
麻子は、イタリアに行くための
準備を整えて高見沢家の屋敷を跡にした。
「さようなら、邦雄」
麻子は、そう言って屋敷を跡にしていた。
そして、成田空港からイタリアに行く
飛行機に乗って日本を離れていった。
源蔵が麻子に対して怒りが解けるのは
先になるだろう。
しかしながら、源蔵は
父親として厳しいことを言うことで
麻子は立ち直って戻ると信じていた。