この日、美咲は真人と
軽井沢の別荘に来ていた。
毎日、愛する人と一緒にいて
美咲は幸せだった。
何度も体を重ねているうちに
美咲は、真人と一緒に暮らしたいと
思うようになっていった。
「兄貴、出張だって?」
「北海道に行くって言っていたわ」
「出張なんて言って、
実は姉貴と一緒だったりしてな。
いろいろ言い訳を
取り繕うことができるんだよ。
セックスならなおさらだよ」
「邦雄とは子供は望めないわ。
だから高見沢の家は、
あなたが守ることになるわ」
「そんなことは、
おやじが決めることだよ。
オレは次男だし、おふくろは
今では後妻に入ったが、
本妻が亡くなるまでは、
おやじの愛人だった。
愛人の子供が、家督を継ぐなんて
ありえない話だよ」
「お母様が違うの?あなたと邦雄が?」
「そうだよ。兄貴と姉貴は本妻の子供、
オレは今のおふくろの子供。
兄貴たちとは、腹違いの兄弟さ」
「知らなかったわ。
邦雄は何も言わないから」
「家を継ぐなんて先の話だよ。
いらぬを心配をして
墓穴を掘るのがオチだよ。
オレはオレ、兄貴は兄貴だよ」
そう言うと真人は、
タバコに火をつけていた。
「だいたい、兄貴が子供を
引き取るなんて考えられない話だよ。
子供に愛情を持つとは思えないよ。
オレだったら、父親として
子供に愛情を注いでやるよ。
おやじが、オレを守ってくれたように。
オレが愛人の子だと言われても
おやじは、オレを大切に育ててくれたから
オレも子供を大切に守っていきたい」
真人の言葉は、真剣そのものだった。
愛人の子供だとさげすまれていても、
父親に守られて育ってきた。
そんな真人なら血がつながらなくても
大切に子供を守ってくれるだろう。
美咲は、真人の言葉に強くひかれていた。
「真人さんが、子供の父親に
なってくれたらいいのにね。
邦雄にとっては、家督を継ぎたいための
道具に過ぎないのね」
「オレに家督を取られるのが怖いんだよ。
だけど、オレは負けない。
家を継ぐのは、おやじが決めることだ。
焦る必要はないよ。
それにオレは、たまたま
高見沢の家に生まれただけで
オレ自身は何もないよ」
真人は、昔からそうだった。
高見沢家の御曹司と言われて
女の子に人気があっても、
それを自慢することはしなかった。
それが、多くの友人に恵まれて
今でも同級生との仲が続いている。
それが、真人の人柄だろう。
お坊ちゃまだからと言って
付き合うのを嫌い、普通の人間として
付き合うのを好んでいたのが
多くの友人に慕われた。
真人にとって幸せなことだ。
人間として自分を見てくれたのだから。