美咲が、真人と関係を
持つようになってから、
半年になろうとしていた。
学校の仕事が終わると
美咲は真人の部屋に行き、
夕食をつくって真人の帰りを待つ。
そんな生活が半年続いた。
季節はめぐって春休み。
学校以外で会うことが難しくなってきた。
そんな時だった。
真人がある提案をしてきたのは…。
「春休みの一週間、
軽井沢の別荘に行かないか?
少し気分が変わると思うんだ」
「別荘って、高見沢家の?」
「そうだよ、思い切って二人きりに
ならないか?兄貴には、奈津子と
旅行に行くって言ったらいいだろう」
「そうね、学校が春休みだと
会う機会が少なくなるものね」
「オレも学校に行くのは、
バスケの練習を見るくらいだから
堂々と会うのは難しくなるからな」
真人に会えないのは寂しい。
こうして二人きりになれるなら、
どこでもかまわないとさえ思っていた。
「美咲が、こうしてオレの部屋に
きてくれてから部屋が明るくなったよ。
毎日、部屋にあかりがともっていて、
誰かが待っていてくれるのが
とてもうれしいんだ」
真人には、今まで感じたことのない
幸せだったのだろう。
美咲が、真人にとって
大きな存在になっていた。
「邦雄は、あなたと私が
関係を持っていることを知らないわ。
このまま、ずっとこうした幸せが
続いてくれたらうれしいわ」
「つかの間でも二人でいられる幸せが、
今のオレたちの幸せだな。
美咲、いつまでも一緒にいような」
真人に言葉に、
美咲はコクンとうなづいた。
そう、二人が幸せならそれでいい。
そばに愛する人がいることが
今の幸せだから。
そして、二人は
別々の家路に着こうとした。
「それじゃ、気をつけてな」
「ありがとう、またね」
車を出る前にキスをする。
それが帰る時の儀式になっていた。
キスを重ねると
何度も真人を求めてしまう。
怖いことだが、真人を
愛してしまったのだから
美咲は後悔はしていない。
「自分のしたことに後悔しちゃダメよ。
後戻りはできないんだからね」
奈津子の言った言葉が
重くのしかかってくる。
そうなんだ、自分は
真人の言葉を信じたのだ。
邦雄ではなく、真人を愛した。
そのことは、後悔していない。
人妻が恋をしてもかまわないとさえ
今は思っているのだから。
そして、美咲は邦雄に話した。
奈津子と旅行に行くことを…。
すると、邦雄はこう言った。
「そうか、わかった。楽しんでおいで。
オレもこの時出張なんだ」
「どちらに行かれるんですか?」
「北海道なんだ。北海道で
農業をやっている取引先が
融資をしてくれないかって
言ってきたんだ。
厳しい取引になるかもしれないからと
オレに任されたんだ」
「大変ですね、気をつけてくださいね」
「その代わり、土産に北海道の食べ物を
クール便で宅配するよ。
カニやら新鮮な魚介類が多いからな。
楽しみにしてくれよ」
邦雄の優しい言葉を聞いているうちに
美咲は、無意識のうちに自責の念に
駆られていた。
罪の意識だろうか?
真人のことを胸に秘めていることが
苦しくなってくることがあった。
邦雄に抱かれるたびに
真人が浮かんできてしまう。
そして、自分が真人を
愛してしまったことを知ったのだ。
夫に抱かれて他の男の影が見えるなんて
美咲は信じられなかった。