「美咲、あたしに何か隠してない?」
「何のこと?」
「他人はごまかせても、あたしには
ごまかせないからね。
あんた、夕べ真人と寝たんでしょ?」
「何を言うのよ、真人さんは義弟よ!」
「正直に言いなさいよ!
あたしは、うそが一番嫌いなの
知っているでしょ?
今日来ている洋服も
真人が選んだものでしょ?
あいつがブティックで洋服選ぶなんて
おかしいと思っていたのよ。
まさか、あんたにプレゼントするため
だったなんて思わなかった。
それで、いつから関係持ったわけ?」
美咲は奈津子に真人と
関係を持ったことをすべて話した。
すると、奈津子はこう言った。
「真人は、自分の気持ちを
爆発させてしまったのね。
あたし、知っていたわよ。
あんたの結婚式の時にね、
真人はここで酔いつぶれて、
オレの好きな女が兄貴の嫁さんに
なってしまったって言って
お酒を浴びるほど飲んでいたわ。
その時、わかったの。
真人は瑠衣子より、
あんたが好きだったんだって。
それが今まで言えなくて、
お酒で吐き出してしまったのね」
「奈津子、黙っていてごめんね」
「いいのよ、話せなくて辛かったよね?
もう、我慢しなくていいから。
自分のしたことに後悔しないで。
後戻りはできないんだから」
「うん、ありがとう。
奈津子に話してよかったわ」
「なに、言っているの。
あたしたち、親友でしょ」
「そうだよね、奈津子」
「あたしたちは、
小さい頃からの幼なじみよ。
これからもずっと親友だからね」
「ありがとう」
美咲は、うれしかった。
本音で心配してくれる親友が、
こうしてそばにいることがうれしかった。
「あのね、あたしが
なんで強く言えるかわかる?
不倫なんて世間では言うけど、
ただ相手に家庭があっただけで、
その他には普通の恋愛と
変わらないじゃない」
「どうして、そんなふうに
割り切れるの?」
「あたしだって、気娘じゃないわよ。
看護師時代に好きな男がいて、
そいつと関係を持ったの。
もちろん、相手には奥さんがいたわ。
だけど、そんなことどうでもいいと
思ったわ。彼を愛していたから」
「それで、その人どうしたの?」
「死んだわ。自殺したの」
「どうして?」
「借金の連帯保証人にされて
相手は夜逃げ。借金を苦にして
屋上から飛び降りたわ。
バカよね、どうして
一言話してくれなかったのかって
そばにいて苦しかったわ。
それから、結婚しないで
一人で生きるって決めたの」
いつもなら気が強い
奈津子が涙を見せていた。
奈津子にとって、
彼は大切な人だったんだ。
大切な人を失った悲しみは
誰よりも苦しい。
「美咲、真人を大切にしなよね。
旦那さんがいる手前苦しいけど、
いつかは成就していくことを
信じてついていくのよ。
相手が死んでしまう悲劇は、
あたしだけでたくさん。
あんたは、幸せになってね」
奈津子の言葉に後押しされて、
美咲は真人と生きていきたいと
思うようになっていった。
そしてこの後、二人の兄弟が
自分のことで対立するのは
当然の摂理と言えるだろう。