ひとり、焦っていると、なるちかくんは気まずそうに目を逸らした。
「ごめん、なんかもったいなくて」
「へ」
唇が、ってこと……?
か、かわいい。
でも。
「2回目、なのに……、あ」
「…………。うわ、あのとき、起きてた?」
「じつは」
「うわ最悪。ごめん、マジで、止めらんなかった」
「ううん、いいの、嬉しかったもん」
ふふ、と微笑むと。
笑い声を封じるかのように、今度こそはぴたりと唇同士が重なる。
ちゅ、と音を立てて、ふれるだけのキスが数回、落ちてきて。
頭がぐらぐら煮詰まりそうになりながらも、受けとめる。
そして、名残惜しそうに、体温が離れた。
「唇、甘い」
「……あ、さっきドーナツ食べてたからかも……」
ドーナツを食べた口でキスしてしまった。
こんなことになるなら、歯磨きしておきたかった、なんてムードもへったくれもないことを考える。
「俺は甘いの好き」
「う、うん」
「はは、照れてんな」
なるちかくんの手がするりとわたしの手をとる。
絡んだ指先、恋人つなぎ。
すべてが余裕に見える、けれど、わたしにはちゃんとわかる。
だって、なるちかくんのこと、ずっと見てる、見てたから。
「なるちかくんも照れてるくせにっ」
「あ、ばれた? 浮かれてるよ、かなり」
とろけるほど幸せそうに微笑んだなるちかくんは、もう一度だけ唇をふれ合わせる。
きっと、わたしも同じ顔をしてる。



