「あっ、そうだっ」
「……?」
とつぜん立ち上がったりっちゃん先生。
きょと、と首を傾げると。
「私、職員室に行かないとだった……! じゃあねっ、またねっ」
慌ただしい動作。
ガタガタと椅子やら机やら、騒がしく音を立てながら、りっちゃん先生が忙しなく保健室の扉をくぐり抜けていく。
その後ろ姿を見送るなるちかくんをそっと視界の端でとらえた。
「……っ、ぁ」
また、知らない顔。
消えていくりっちゃん先生の背中、ただそれだけを瞳の真ん中に映すなるちかくんが浮かべていたのは、真顔とか、笑顔とか、そんな風にひとことで言い表せるような表情じゃなかった。
繊細で、儚くて、脆い。
飴細工みたい、それは見惚れてしまうくらい綺麗なのに、軽く歯をたてれば、ぱりぱりと崩れてほろほろと零れてしまうような。
わたあめみたい、それはふわふわしていて夢のなかにいるようなのに、舌の上にひとたび乗せてしまえば、すぐに溶けてなくなってしまうような。



