いつも通り、だ。
でも、いつも通りじゃない顔を見てしまった。
なるちかくんって、あんな顔するの?
知らなかった、いつも、にこにこ笑って、色んなことをはぐらかして、笑顔で受け流しているから。あんな……顔。
心臓がきゅうっとなる、なんだろう、この気持ち。
一瞬だけ見えたあの浮かない表情は、ぜんぜんなるちかくんらしくない。
幻みたい。悪い夢みたい。
……でも、この目でちゃんと見た。
「ほのかちゃん?」
「あ……」
「どうしたの? どこか具合わるい?」
りっちゃん先生の心配そうな声に、あわてて首を横にふった。
違う、そうじゃないの。
ただ、なるちかくんが……っ。
そう思って、また、なるちかくんをちらりと見る。
その横顔はあまりにも “ふつう” だった。少し不自然なくらい。
────まさか。
りっちゃん先生となるちかくんを交互に見比べるうちに、もしかして、とある予感が胸をよぎる。
その瞬間、もう夏に片足をつっこんでいるというのに、冷たい風がひゅうっと吹き抜けたような気がした。



