「ほのかちゃん」
「っ、は、い」
「駆け落ちしよっか」
「……へっ?」
ぐわん、と目を見開く。
まあるくまあるくひらいた、わたしの瞳に、なるちかくんは満足気に「ふは」と笑い声を上げた。
「その反応が見たかった」
「からかったの……っ?!」
「さすがに、駆け落ち、はじょーだん。けど、このままふたりではぐれておきたい気分なんだよな」
「ええと」
「忘れた? 今日、一日、俺、ほのかちゃんの彼氏になるって」
忘れないよ、そんな、衝撃的なこと。
『一日だけ、俺がほのかちゃんの彼氏になるし』
彼氏、といっても、設定上の……。
いわゆる、“ごっこ” 。
「なのに、今日それっぽいこと何にもできてないしな」
「別に、そんなの、いいよ」
「よくないから、ほら」
わたしの腕をひいて、人混みのなかを駆けだす。
もうすぐ花火が上がる時刻。
人の流れは、花火を見るのにいいスポットの方へ動いている。
────対して、なるちかくんの足が、そしてなるちかくんに腕を引かれるわたしの足が向かう先は、そのちょうど反対方向。



