世界で一番幸せそうに、笑え。




「なにぼーっとしてんだよ。」


休み時間になって声を掛けてきたのは、隣の席の大橋夏樹(おおはし なつき)。何を隠そう、彼が私の好きな人である。


「別になんでもない、けど、ぼーっとしてた?」


告白された、なんて言えるはずもなく、曖昧な笑みで誤魔化せば逆に聞き返す。

こうやって休み時間にこいつと話せるのは素直に嬉しい。


「授業中魂飛んでた。」


真顔でそういうこいつの言葉は、一言で私を喜ばせる。つまり、授業中もちょっとは私の事気にしてたってことでしょ?

バカみたいにちっさいことだけど、嬉しくなる。

こいつはお調子者だし、馬鹿だし、アホだけど、そういうところが好きなのだ。いや嘘、全部好き。


でも今は正直それどころではない。先輩のこと…。

やっぱり1時間考えてみたけど、私が好きなのは夏樹だから。だから、ごめんなさいって言いに行かないと。


「ほら、また眉間に皺寄ってるし、魂飛ばしすぎ。」


横で頬杖をついてこっちを見る夏樹は、私の開いた口の中にパンを放り込んだ。


「なっ…!?」


口の中に広がる甘い味は、チョコパン特有のもので。私の気持ちを一瞬で和ませてしまった。



「美味しい…ありがとう…。」



少し恥ずかしくなって、視線を足元に移せば、無駄にでかい、いいってことよ、という夏樹の声が教室に響いた。