授業の内容が全く頭に入ってこない。
一限は化学で、文系の私はしっかり聞いていないと駄目なのに。なのに、先輩があんなことを言うから。
え、いつから?
もう先輩たちが引退してから3ヶ月は経っている。
部活をしていた時は、先輩が自分のことを好きなんじゃないかなんて一度も思ったことは無かった。いや、引退してから今までもずっと。そんなことを感じたことは微塵もない。
連絡先は一応持ってはいるが、最後に話したのが何時だったのかも分からないくらいになっている。
先輩が引退してからは、廊下で見かけたら挨拶する程度の関係。でもそれは、引退する前からだし、先輩だけじゃなくて、他の先輩たちにだって挨拶はする。マネージャーとしての礼儀である。
ぐるぐるとさっきの言葉が頭を回る。
恥ずかしながら、告白をされたのは人生で初めてだった。
それなのに、すぐに振ってしまおうとした私を馬鹿だと思うかもしれないが、私は好きな人にしか興味が無い、はずだ。
でも今ちょっぴり先輩のことを考えているから、そんなこともないのかも。
改めて先輩のことを考えてみる。
八代 勇気(やしろ ゆうき)先輩。
身長は180あるかないかくらいで、かなり大きい方だった。はじめは怖かったけど、ほんとは優しい人。そこそこ時間が経ってからは、マネージャーとして仲良くなることが出来たとは思っていた。多分先輩たちからも慕われている。バスケが1番上手くて、試合中は1番頼りになる先輩。好きな食べ物は、知らない。嫌いな食べ物も、知らない。バスケに関係すること以外は、何も知らない。
先輩が、私について知っていることだってこんなもののはず。好きな食べ物は、私が常々公言しているから知っているかもしれない。ブロッコリーが大好きということ。
でもきっと、それ以外は何も知らないと思う。
思い返してみても、先輩と2人で話した記憶なんて大してないし、チームの仲間として共有した思い出ばかりが蘇る。
やっぱりなんで好きになって貰えたのかわからない。
ちゃんと聞いてみて、答えを考えよう。
