【Hiei's eye カルテ8:この手が届かなくなった日 】




名古屋医大病院 小児科医師の服部先生に伶菜のエコー画像を診て頂いた明後日。
俺は三宅教授から伶菜のエコー画像を持参して大学まで来るようにと呼ばれた。


「日詠先生、データを預かります。」

『宜しくお願いします。』

俺は先に教授室に来ていた服部先生にデータの入ったUSBを手渡した。

「待たせたね。じゃあ、始めようか。」

後から入室した三宅教授と共に、伶菜のエコー画像をパソコン上で確認し始めた。
一度画像を診ている服部先生が手際良くマウス操作をする。


「これです。」

「・・これか・・」

三宅教授は眼鏡を指で引き下げながら、服部先生が指差す箇所を食い入るように画像に目をやった。


「日詠クン。」

『・・はい。』

「よく見つけたね。産婦人科医師ではなかなかここまで読影できるもんじゃない。さすが日詠クンだ。」

『・・じゃあ、やはり・・』


滅多に他人を褒めないと言われる三宅教授が自分を褒めるような言葉を紡いでいる
学生や新人医師の頃だったらそれなりに嬉しかったかもしれない

でも、今は服部先生から聞かされていた病名であることを確定されることを恐れて、褒め言葉なんてサラリと聞き流してしまう


「そうだ。しかも、この症例はちょっと複雑だ。この状態でウチの大学含めてこの辺りで、この症例のオペ(手術)を確実に出来るドクターはいない。」

耳に強く残ったのは、名古屋医大小児科と連携して、奥野さんと一緒に伶菜の出産に関わろうと考えていた俺にとってあまりにも残酷な言葉。