診察室にやって来た福本さんは入ってくるなり、書類らしきものが入っている大きな封筒を日詠先生に渡した。
そして、近くにあった折り畳み椅子をスッと広げ、私のやや斜め右後ろに腰掛けた。
その封筒を受け取った日詠先生はその中から書類を取り出しデスク上に置いてふうっと一息をつく。
「・・・・高梨さん。」
今にも消えそうな小さな声で私の名を呼ぶ日詠先生。
それによって私の胸の中のざわめき感は更に増す。
『は、ハイ。』
「突然な話なんだけど・・・」
いつもの、切れ長で瞳の奥を射抜かれそうな日詠先生の目ではなく、力強さなんて感じられない彼の目
やっぱり、いい話題なんかじゃない
最近、居眠りできちゃうほどのんきになっていた妊婦が
日詠先生のその一言を聞いた瞬間、肩をすくめ、両手で口を塞いだ。
「東京・・・」
『・・・東京?』
「・・・東京医科薬科大学病院に転院したほうがいい。」
なんとなくいい話題じゃなさそうと思ってはいたものの
この時の私は何がなんだかわからなかった。



