ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「遅くなってごめんな。時間大丈夫?」

日詠先生は座っていた回転椅子の向きを変えて私の方を向き、笑いながらそう言った。

でもその笑顔はいつものような優しいものではなく、
なぜか無理矢理口角を上げて作っているように見えてしまう。

なんだろう・・・・?


「体調、どう?ちょっと尿蛋白出ているみたいだけど。」


私の尿検査の結果だけであんな表情になるのかな?
尿蛋白ってあまり良くないのかな?

私の頭はいつになくモヤモヤしたものに張り巡らされてくる。


『・・・・・・・』

「高梨さん・・・・大丈夫?」

日詠先生は私の顔を覗き込んでいた。


『・・・あっ、ハイ。大丈夫です。さっき居眠りしてたからボーっとしてるかも。」

私は咄嗟に思いついた言い訳をする。
その瞬間、診察室の奥にあるスタッフ用の出入り口のドアが開いた。


「遅くなりました。失礼します。」


診察室内へ入ってきた人。
その人はさっき日詠先生が電話で診察室へ来るように依頼していた産科病棟の看護師長の福本さん。

「伶菜ちゃん、お久しぶり!お腹、大きくなったわね!」

福本さんは笑顔で元気よく私に話しかけてくれた。
日詠先生の不可解な笑顔とは対照的な自然な笑顔で。


福本さんは私が産科病棟に入院中、頻繁に病室を訪ねてくれていた40才代半ばのベテラン看護師さん

福本さんと話していると、他愛のない話をしていたのに、いつのまにか自分が不安に思ったいることや心配なことをも喋りたくなる・・・私にとって不思議なんだけど頼りになる人だった
今から思えば、お腹の中の子供を産もうと前向きになれたのはこの人の力も大きかったような気がする

そんな福本さんをなぜ、今
私の診察中に日詠先生は呼んだんだろう?

私の胸の中は久しぶりに嫌なざわめき感がじわじわと巡り始めた。