ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



そのはずだったのに・・・・。

「高梨さん。」

私は看護師さんに右肩を軽くトントンと叩かれ目を覚ました。
待合室のベンチに腰掛けたまま、居眠り。
私はいつからこんなにのんきな妊婦になっちゃったんだろう?


壁にかかっている時計の針は既に夕方の5時半を指そうとしていた。
あんなにたくさんいた診察待ちの妊婦さん達の姿は潮がひいたかのように見えなくなっている。


「高梨さんですよね?」

『あっ・・・ハイ。』

「大変お待たせ致しまして申し訳ありません。診察の順番が来ましたので中へお入り下さい。」

『あっ・・・ハイ。』


私は寝起きだったのもあり、ボーっとしながら適当に返事をし、看護師さんに誘導されながら診察室の中へ入って行った。

目の前には、左手で電話の受話器を持ち、右肘をデスクにつけたまま、右手で右目を覆っている日詠先生の姿アリ。

ようやく少し頭が動いてきた私には
日詠先生が考え込んでいるような、迷っているようなそんな表情に見えてしまった。


たくさんの妊婦さんを診てたから疲れているのかな?
そんな安易な検討をしていた私。



「もしもし、日詠ですが・・・福本さんですか?お忙しいところ申し訳ありませんが、例の書類を持って診察室まで来て頂けますか?」

日詠先生は診察室の入り口に立っていた私に気がついていないようだった。


「はい、、はい、、、じゃ、すみませんがよろしくお願いします。」

受話器を置いた日詠先生はようやく私の存在に気がついた。