ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




その後、伶菜は週1回、俺の木曜日の外来診察日に検診を受けに来てくれていた。

友人に手伝ってもらいながら、頑張って出産準備を進めていること
白飯がようやく食べられるようになってきていること

それらを穏やかな顔で話してくれる
診察中に行ったエコー(超音波)検査の写真を手渡すと、それを本当に嬉しそうに眺める彼女の姿に、母親になる準備が順調に進んでいるなと俺は安堵する



「伶菜ちゃん、会計待合エリアで嬉しそうにエコー写真、眺めてたわよ。メンタルも落ち着いているみたいね。」

『・・ええ。奥野さんのお陰です。』

「何、言ってるのよ。あたしは普通に仕事してるだけよ。」

『いえ、女性同士ならではの話もあるでしょうし、俺自身も心強いんです・・・・奥野さんにフォローを入って貰っているという安心感で。』

「買い被りすぎ。何もでないわよ。」

『・・奥野さんの爪の垢を煎じて、福本さんに飲ませてやりたい。』

「は?何で?」


鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした奥野さん。
福本さんに限定スイーツの買いっ走りさせられるのはどうやら俺だけなんだと密かにガッカリする。


『ただの独り言です。』

「ふ~ん。でも福本さんが日詠クンにちょっかい出したくなるの、わかるわね。」

『は?何で?』

「ちょっと!!!!! さっきのあたしのリアクション、真似しないでよ。」


福本さんの行動に共感できるみたいなことを口にした奥野さん。
それによって俺の中で芽生えた意地悪ゴコロからの彼女の真似。

その結果、ギロリと睨まれるハメに。
先輩には逆らわないほうがいいとつくづく思い知らされる。


『で、奥野先輩、ちょっかいとか、何でですか?俺、何かやりましたっけ?』

「そりゃ~、日詠クン、木曜日だけあからさまにデレ顔してるから。」

『はい?!』


木曜日だけデレ顔・・・
他人から見たら、俺、そんな風に見えているのか?



「仕方ないわよね。会えるの、木曜日だけだもんね。でも、他の曜日の外来患者さんがヤキモチ焼かない程度にしておきなさいよ。」

”ヤキモチとかも意味わからないんですけど?” と問いかける隙を与えてくれないまま、奥野さんは俺を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。