『俺なんて大したことないさ。だから婿探しなら他を当たったほうがいい。』

「何言ってるのよ。母もアナタのことを気に入ってるから。勿論、あたしもね。今度、ご馳走するからウチへ連れてきてって言われてるのよ。」

『悪いが、忙しくて時間が取れない。』

「じゃあ、まだシフトを出していない来月にでも予定を空けておいてね。」

『・・・忘れなかったらな。』



三宅教授には学生時代からお世話になっているけれど、開業医の婿になんてこれっぽっちも考えてない

今の、この病院の産婦人科医師になること・・・それが幼い頃からの俺の夢だったから

それだけじゃない
伶菜が現れた今は特に
婿とか、結婚とか、そういうのは正直ピンとこない

ずっと捜していた伶菜が担当患者という立場ではあるものの自分のリアルな生活の中にいた
幸せという言葉とは、もしかしてこういうことなんだろうかと思えてしまったその生活


だから、俺は三宅の誘いを受けるわけにはいかない
本当はキッパリ断るべきなんだろうが、上手く伝えられない
俺の言葉の足りなさは自分でもわかっているけれど・・・・


俺の残念な対応に付け込むように三宅は ”忘れさせないから安心して” と言い、ようやく給湯室から立ち去った。
そして伶菜の退院、そして三宅からのプライベートで会おうという誘いのせいで、どっと疲れが出た俺は飲み終えたマグカップを洗いながら大きな溜息をついた。