そういう状態に陥った俺からは次の言葉が出てこない
何をどう言えばいいのかわからない

でも、今・・・なんだ
俺の想いを彼女に伝える時は・・・


だから、口下手の俺らしい方法で伝えるしかないんだ

『伶菜、目、閉じて。』


伶菜
どうか感じ取って欲しい
今、お前の頭に載せた白衣の意味を


「お兄ちゃんが持っていたんだね・・・」

『ああ、俺が親父から直接受け取って、ずっと持ってた。お前に渡したピースもな・・・』


どうか完成させて欲しい
今、お前に渡した木製の箱に収めてある物達に込めた俺の想いを暗示させるパズルを


『もう真っ暗だ、かなり冷えてきているし・・・行こう・・・』


どうか歩き始めて欲しい
お前と一緒にずっと生きていきたいという願いを胸に抱いている俺と一緒に・・・


口下手な俺の、人生最大と思われる壁を乗り越える道は
まだ始まったばかり。

その道の先を進むために俺は、自分が渡した物を手にしたまま何がなんだか今ひとつわからない様子で首を傾げている伶菜の手を引いた。


彼女の冷えてしまった手を直に触れた俺は、この時、
壁を乗り越えるのにどんなに時間がかかっても、
この手を離さない

そして

冷えたこの手は俺が温めてやるんだ
これから先もずっと

そう思いながら、乗り込んだクルマのハンドルを右手で強く握ってアクセルを踏んだ。

黙ったまま前をじっと見つめている伶菜が今、どんなことを思っているのかを気にかけながら・・・