『サプライズとかって・・・入江さんってこういうことする人だったっか?』

カードをひっくり返し、表面のホテル名をもう一度まじまじと眺めていると、背後から、ずささ、ずささと何かを引き摺るような音が聞こえ、振り返る。


そこには、

「お兄ちゃん・・・入江さん達は?」

灯りが燈った電灯の光に照らされ、淡く光る白いロングドレスを身に纏った伶菜。

その彼女が、裾を引き摺らないようにドレスを持ち上げ、長い髪を潮風に吹かれながらこっちに向かっている姿がすぐそこにあった。




『・・・・・・・・・』


真っ白なロングドレス=ウエディングドレス?


ついさっきまで、病院で休憩しながら、
俺はどうしたらいいんだろう?
どうすべきなのか?

ということを考えていたんだぞ?


でも、いくら考えても、
伶菜がいなくなることなんか、もう考えられなくて
だったら
このまま伶菜を手離して婚約者の元へ向かわせるぐらいなら
もういっそのこと、彼女と駆け落ちしてしまおうなんて考えたりもしていた


でも、入江さんから譲り受けた解答用紙で、
ちゃんとした形で幸せにしてやろうと覚悟したはずなのに、

いざ、伶菜のドレス姿を目の当たりにして

俺はもしかして今、
都合のいい夢の中にいるのかもしれないなんて思ってしまう


それぐらい、今の伶菜は
自分のほうに真っ直ぐ向いている今の伶菜は

今まで見た中で一番
ただただ美しい

そう思わずにはいられない



だから、この時の俺は、入江さん達が帰ってしまった理由を尋ねている伶菜の声に集中することができず、

『・・・・キレイ、、、だな・・・・』


彼女への返事が完全に的外れな内容になってしまうぐらい、彼女のその姿によって、
今までの自分と彼女が辿った様々な過去を想い起こして感無量状態になっている俺の心の声がこぼれたんだ。