そして、潮風でひらひらと揺れている、入江さんから譲ってもらった解答用紙をオルゴールの上に載せて、白衣の胸ポケットから取り出したボールペンで一文字ずつゆっくりと文字を書き入れる。
この解答用紙を記入し終えた今。
大学入試の解答用紙を埋めてシャープペンシルを机上に置いた時よりも、
医師国家試験の解答用紙を書き終え、見直しをした時よりも
人生の節目のひとつでもあったそれらの時よりとは比べ物にならないぐらい
今のこの瞬間の俺は緊張している。
『・・・確かに高い壁かもな。』
ずっと想い続けてきた相手に渡す解答用紙。
それを今、手にしているから。
『でも、高いからって、もう諦めない。』
俺は自分にそう言い聞かせながら、その解答用紙をオルゴールの蓋の上で丁寧に小さく折り畳んだ。
そして、オルゴールの蓋をそっと開け、小さく折り畳んだそれをオルゴール内の空きスペースに入れてあったパズルのピース達の隣に丁寧に挟み込んだ。
パズルにこめられた様々な想いが彼女に届くことを願いながら・・・
伶菜に渡すと決めた親父の形見とついさっき記入したばかりの解答用紙。
どう渡そうかと思案し始めるも、吹きつける冷たい潮風が指先を更に冷やす。
それをなんとかしようと、スラックスのポケットに手を突っ込んだ際に指に当たったものを取り出した。
『そういえば、コレ、どこのだろう?』
手にしたのは入江さんから受け取ったカード。
浜名インターナショナルリゾートというホテルの名称が書かれたそれ。
カードの裏面には、セロハンテープで黄色い付箋が落下しないように貼り付けられている。
ただ、ついさっき湖の浅瀬で伶菜とともにズブ濡れになったせいでポケットも湿っていたこともあり、その付箋が水分でよれよれになっている。
それに書かれている文字もぼんやり滲んでいるが、なんとか読解できる状態だ。
その文字は入江さんによって書かれたものであることもちゃんとわかる。
その内容。
それは、
{部屋以外にも予約してあるところがある。詳しくはフロントで聴け。}
まだサプライズがあるということを暗示するようなメッセージ。



