しまった
入江さんも、久しぶりに再会した綾さんが結婚していたという形で失恋したばかりだ
さすがにこの質問はダメージがデカイに違いない

勝手にそう思い込んでいたすぐ傍から、威勢のいい声でアハハハと笑い飛ばした女性の声が聞こえた。
その直後、その女性と入江さんが伶菜が口にした綾さんについて確認し合う声も。


そして、どうやらは目の前の女性は綾さんではないらしいという空気を読み、申し訳なさそうな表情を浮かべた伶菜にその女性は

「自己紹介遅れまして・・・・私、入江先生の教え子で、今は同じ高校で数学教師をしています高島茜って言います。私が綾さんではなくて、彼女の先輩なんです。」

自分の正体を丁寧な説明を添えて明かす。
そして、入江さんがここにやって来た理由らしきもののヒントになりそうなモノを伶菜に手渡した。

かなり大きなサイズの箱を手渡され、一瞬、よろめいた伶菜。


ズブ濡れの彼女に何をさせるつもりなんだ?
しかも、ここで箱を開けるなとか、トイレに向かわせるとか、意味不明

さすがにやっぱり邪魔されてるかもと疑いをかけ始めている俺は黙っていられず、入江さんに箱の中身を問い質す。

返ってきた言葉は・・俺の準備不足。
しかも、俺の目の前に差し出してきたカードまでも出世払いなんて言ってのける。

そんな中、高島さんという女性に言われるがまま、重そうに箱を抱えてトイレに向かった伶菜。
その後ろ姿が相変わらずよろよろと揺れているのが心配で追いかけようとした俺なのに、入江さんにグイッと手を引かれた。



「そろそろ気付け。」

『はい?』

「俺だって、お前の幸せを願っているってことをな。」

『・・・・入江さんが・・・ですか?』

何を考えているかわからない彼を真意を探るように軽く睨みつけるも、全く怯む様子なんてみられない。


「そうだよ。立場とかに(こだわ)ることがいかに自分の首を絞めるかということはお前以上に知ってるからな。」

『・・・・・・・・・』


しかも、ずっと心の中だけで想い続けた相手が結婚していたという失恋をしたばかりの男のその一言で俺が逆に怯んでしまったぐらいだ。
彼のすぐ後ろにいる高島さんも心配そうな表情を浮かべているぐらいだし。