【Hiei's eye カルテ53:親友からの出題】



医師になって初めて病院の仕事をサボっている俺が伶菜を引き連れて、今、立っているこの場所。
浜名湖にある海浜公園。


『・・・・ったくこんなところまで・・・』

「だって、ここ浜名湖だぜ。俺にもわざわざご挨拶しに来たかと思ったよ。」


突然、姿を現し、伶菜を全身ズブ濡れにさせてしまった俺に産科医師失格と言わんばかりの説教をしてくる入江さん。
自分の不注意と開き直った俺は、彼に随分前に話したことがあったことをふと想い出した。

ここは自分の幼い頃の大切な想い出の場所のひとつで
いつか、ずっと捜し続けている大切な人を連れてきたい・・と。

それにしてもタイミング良過ぎるんじゃないか?
できれば誰にも邪魔とかされずに、ここで伶菜とふたりでじっくり向き合いたかったのに。

だから、人を策士呼ばわりした彼に、”邪魔しに来たわけじゃないよな?” の意を込めて、なぜ俺達がここにいるのがわかったのかと問い質す。


「俺も緊急連絡網の枝の一部だからね・・・日詠さんちの緊急事態のね。」

俺の機嫌の悪さをもっと煽るかのように入江さんは余裕たっぷりの表情で返答する。


緊急連絡網とか、俺んちは学校でも会社でもない
どうせ杉浦さんとかからだろう
杉浦さんと入江さんは以前、伶菜が入院中の時に、彼女の無断で荷物を俺の部屋へ運んでくれた時に顔を合わせていて顔見知りだしな。
それにここがわかったのは、やっぱり俺が以前口にしたことを彼は覚えていたんだな


っていうか、入江さんは何をしに来たんだ?

「へえ、入江先生、メル友になるような女性とかいるんですね・・・」

しかも、入江さんと杉浦さんの関係を怪しんでいそうな女性を連れているとか、どういう風の吹き回しなんだか・・・


もしかして、この人が綾さんなのか?
入江さんがずっと想い続けてきた教え子である綾さんなのか?

そう思った瞬間、俺が聴きたくても聴けない地雷のような質問を伶菜が入江さん本人に投げかけてしまった。