でも、さっきまで前のめり姿勢だった彼女が助手席にポスッっと沈み込むように背を預けた。
そして、また何か考え込んでいるような彼女のそんな表情も一瞬だけ脇見運転をした俺は見逃さなかった。
多分、今度は、俺の大切な人はどういう職種の人間か?とかそういう興味本位で考え込んでいるんじゃない
おそらくこれからどうなるのか?という不安とかが頭を過ぎっている
・・・黙ってしまった彼女が醸し出すそんな雰囲気までも。
これからの不安とかなら、あって当然だろう
彼女の中ではシスコン兄貴に手を引かれて、婚約者から離れてしまったという状況なのだから
兄と妹という関係
それが彼女の中で、”俺が彼女のことがスキだ” という感情を否定してしまう根源となっているんだろう
それなのに、この期に及んでも俺はまだその関係の真実に触れたりしていない
俺がまだ伶菜の婚約者が結婚詐欺まがいのことをしていることを知らない時に伶菜の手を引いたのは、婚約者から彼女を奪って駆け落ち同然なことをしてでも、彼女と一緒に居たかったから
でも、婚約者の結婚詐欺まがいを知ったことによって、駆け落ちなんかしなくても、まだ一緒に居られることになった俺達
だから今、周囲の人間に対して後ろ髪引かれることなく、むしろ背中を押される形でこうやって彼女を連れ出すことができている
それでも、兄妹という関係の真実に触れていない今、
彼女に一緒に居られる状況は、この先の未来のどこまでもなんて保証はどこにもない
伶菜にまたスキな人ができて、その人と一緒になると言ったら
彼女と一緒に過ごす時間はそこで終わりなんだ
俺は今までみたいにそれをただ待つだけでいいのか?
さっきまで、伶菜が知りたがっていることを嫌という程思い知らせてやるなんて強気だった俺の心が、伶菜が醸し出す不安そうな雰囲気ひとつで簡単に揺れる
揺れている場合じゃない
その時をただ待つことが俺の本望なんかじゃなかったはずだ
名古屋という賑やかな街にいる日常から抜け出して
日常にありふれてる余計なことを考えなくてもよくて、しかも想い出の詰まった場所で
まだ俺が彼女に話していない過去と
俺と彼女の関係の真実
そして
自分の今の想いを
ちゃんと話しておいたほうがいい
だからこうやって連れ出したはずだろ?
その上で、伶菜がこれからどうするかは
彼女自身が決めること
真実を隠してきた俺には決定権なんてないんだ
そんなことをずっと考えているうちに
俺が彼女に話していない過去のひとつが存在する場所に辿り着いた。



