ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



元々、注目されるとか苦手
しかも、心を奪われている女の視線
このままじゃ運転に集中できなくなりそうな俺


『なんか俺、視線感じるんだけど・・・気のせいか?』

さすがに何とかして欲しくてそう訴えたけれど、気のせいだと言われ、戦意喪失


気のせいどころか
あのくりくりとした大きな瞳でじっと見つめられると、平常心ではいられなくなるだろ
いっそ、言葉で上手く言えない分、キスでも落として、スキだという想いを存分に理解させてやろうか?




そう思った瞬間、東名高速名古屋インターチェンジ入り口にある交差点に差し掛かった。

ここで道を間違えると戻るのが厄介だし、急ハンドルをすると、同乗している伶菜は勿論、周囲のクルマにも迷惑をかけてしまう
そう思った俺は、なんとか正気に戻り、インター入り口の看板をしっかりと目視で確認して、アクセルを踏んだ。



アクセルを踏んだと同時ぐらいに俺から逸らされた視線。
どうやら、ちゃんと前を見ているらしいとほっとしたのもつかの間。

彼女は ”手土産持ってきてない” と ”名古屋名物を買っていかなきゃ” と慌てた様子でギアに手をかけている俺の袖をグイグイ引っ張った。


そういえば、行き先、言ってなかったな
どこへ行くか・・・なんて

手ぶらでお邪魔するわけにはいかないとか
伶菜はこれからどこに行くと思ってるんだ?


『だってお前、どこ行くの?』

なんかトンでもないことを考えていそうだから、本人にそう聴いてみた。


「・・・東京の日詠先生のトコじゃなくて?」

『何をしに?』

まさかの父さんのトコという返答。
確かに東京方面にクルマを走らせているから、そう思ってもおかしくはないな


「・・・何をしにって・・・それはこっちが聴きたいです!っていうか・・・そうじゃないの?」

『ああ、申し訳ないけど違うところ・・・父さんのところはまた・・な。』


まあ、いつかは連れて行かなきゃいけない
いや、いつかは連れて行きたい

伶菜と父さんは既に
患者の家族と患者の執刀医という関係にて顔見知りだけれど
それでも俺の口から伶菜を父さんに紹介したい

でも、その前に俺はやらなきゃいけないことがあるんだ
だから、今は ”父さんのところはまたな” としか答えてやれない