ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


惚れた弱みを本人の前で(さら)すこと。
今、なぜこうやって仕事をサボってまで一緒に居る理由をどうやらわかっていなさそうな彼女だからこそ、俺はそれを(さら)すべきかもしれないのに、
それが上手くできない。


今だって、助手席のドアを閉めると同時にそれをこぼすのが精一杯な状況。
どうやら俺がこぼした ”スキ” という言葉を拾い切れなかった伶菜が、俺に何て言ったかを聴き直すというある意味チャンスをくれたのに、

『お前のそういうところ・・・ス・・・・いや、す・・ごく・・・そうそう凄く、面白いって言ったんだよ!』

ついつい誤魔化したりしてしまう始末の悪さ。


伶菜が今の状況を ”シスコンの兄に連れられてドライブに出掛けるのに付き合う” という軽い感じで捉えているのは、多分、本当の想いを彼女の前で(さら)すことができない俺の不器用さも大いに手伝っているのだろう。


「な~んだ・・・面白いって失礼だよ、お兄ちゃん!」

『・・・・お兄ちゃん・・・・ね・・』


軽く笑う彼女に ”お兄ちゃん” と言われた俺は
スキと言えない自分自身に対してもう溜息を付くことしかできない。

自分の言葉で彼女がスキという想いを伝えることはお手上げ。
そんな状態に陥った俺はクルマを発進させることしかできない。
そしてこのまま運転に集中するフリをして黙る。
それが正解なのかわからない俺はそのままクルマを走らせた。




いつもならFMラジオの音が流れているはずの静かな車内。
ついこの間、このクルマで出勤した際に考え事をしていた俺はその音が雑音に聞こえて、そのボリュームを下げたままにしてあった。

小さくしてあったボリュームの音を上げること
過去に付き合っていた女性に ”音量上げるとか・・・会話するのが面倒臭いの?” と誤解させてしまったこともあり、今、わざわざそれをしようとは思えない。
だから、ボリュームを上げることをしなかった。


そのせいか、隣から妙にひしひし感じる伶菜の視線。
ネクタイを緩めたところまでじっと見つめている様子。