ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



福本さんだけでなく、杉浦さんだって、俺のいつもとは異なる行動の意味を理解したような冷やかしの言葉を浴びせてくる。

自分で説明するぐらいなら、こうやって見た目で判断や理解されて冷やかされるほうがまだマシかもしれない・・・そう思った矢先だった。



「お兄ちゃん、シスコンと思われてもいいワケ?!」

『・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」



ひとりだけ、しかも一番理解していて欲しいはずの人が
どうやら空気を読んでいないということを痛感させられた。

でも、そのおかげで、容赦なく冷やかし続けられそうだった空気が、冷やかしではなく、生ぬるくなってくれて。

その渦中に居たはずの奥野さんや三宅、杉浦さんや佐橋さんは、俺達とのやり取りは傍観者だったような、随分過去の話だったような、そんな雰囲気を醸し出しながらこの場を立ち去った。
福本さんも伶菜に抱っこされていた祐希を抱き上げて、預かると言い連れて行ってしまう。

それでも俺は伶菜の手を離さなかった。



『もうそろそろ・・・・行く、か?』

「うん♪」

もう二度と伶菜に迷ったりさせないために。

そして、指を絡め合ったまま俺達はどちらかが引っ張るようなことはなく、同じ歩調で一緒に屋上から駆け出した。


途中、病棟で患者さんらしき人に振り返られても
階段で彼女がフラフラしても
外来診察フロアでそこに居合わせた人達にザワザワとされても
俺と伶菜はその手を離すことなく駐車場まで辿り着いた。


久しぶりに真剣に走った俺はさすがに息切れ状態。
年取ったせいだなと苦笑いしている横で、俺より若い伶菜のほうが、俺よりも激しく息切れしている。

膝に手をかけて前屈み姿勢になって肩を揺らす彼女。
もしかして喘息とかあるのか?と心配になり、呼吸器科受診を勧め、外来診察室まで抱えて運んでやろうかと声をかけたところ、

「・・・け、け、結構ですっ!」

真っ赤な顔で頬を膨らしながら俺を軽く睨む彼女。
蒼い顔していないし、息切れもさっきよりも収まってきているから大丈夫だろうと判断した俺は彼女をクルマの助手席にそっと押し込む。

それでもまだ俺を睨む彼女。


睨まれていても、ついつい彼女が可愛く見えてしまうのは

『お前のそういうところも、ス・・・キ・・だな。』

惚れた弱みなんだろう。