【Hiei's eye カルテ52:行き先内緒ドライブ】



伶菜の婚約者から彼女を奪って、そして、そのまま自分達のことを誰も知らない場所で暮らしていこう
・・・彼女達が自宅の合鍵を返しに俺のもとへやって来るまではそんなことを考えていた。

それなのに、彼女の婚約者が結婚詐欺まがいなことをしていたことを知り、俺は迷うことなく伶菜の手を引いた。
でも、その元婚約者の更正の願う伶菜が立ち止まり、彼にメッセージを送る。



その姿に、どんな状況でも他人への思い遣りを忘れない彼女に改めて惚れ直す。
そんな奴なんか放っておけよ・・・密かにそんなことも思ったりしているうちに俺は逆に伶菜に手を引かれた。


彼女の小さな手によってグッと掴まれた手首。
あまりの力強さに、彼女が手を痛めてしまわないかのほうが気になるぐらいだ。


『・・ああ。取りあえず、手、放せ。』

だから、そう声をかけたのに、なぜか伶菜は明らかに肩を落としている。

でも、杉浦さんの ”早く彼女を連れてけ” みたいな言葉で、伶菜に手を放させたことが逆に、彼女との距離を広げてしまったことに気が付いた。


この距離、どうやって近付けばいいのだろう?

でも、深く考えている暇はない
杉浦さんの言う通り、俺と一緒に行こうとしている伶菜の気が変わってしまう前にどうにかしなくては

だから、彼女の手を
優しく、そして確実に掴むために俺は


『引っ張るなって。見つかっちゃうだろ?あの人達に・・』

本当ならこっ恥ずかしいという気持ちをどうにか抑えこみながら、伶菜の指に自分の指を絡めた。



でも、いつもと違う行動なんてそうそう見逃しては貰えないもの。
福本さんには伶菜と手を繋いでいる姿なんてあっという間に見つかった。
他の看護師さん達から尋問にあうのを覚悟しておけ・・・みたいな忠告までしてくれて。

確かに普段から、彼女はいるか?と聴かれることは結構ある
そんなの、挨拶みたいなものだろうと解釈して、”いない” の一言で済ませてしまっているものだ

でも、伶菜の手を引いた今

彼女はいるか?という問いに対して ”いない” という返答はもうできない
けれども、いちいち、”俺の彼女です” とか説明するのもそれこそ恥ずかしいものだ


だったら、

『もう見つかっちゃったんだな・・・・・まあ、見られてもいいし・・・いちいち説明するとか面倒なコトもなくなりそうだしね。』

”百聞は一見に如かず” でいいのかもしれない