ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




「よく頑張ってるからな。そろそろと思って。退院したら気分転換兼ねてベビー用品を見に行くといい。かわいいぞ、なにもかもが小さくてな。」


かわいいぞ・・・とかすかに微笑みながら言う日詠先生の顔もなんだかかわいく思えてしまう。
そのせいで赤くなってしまう頬。
その頬の赤味を隠すために私は受け取った退院計画書で目から下を覆う。


「じゃ、食事中、ごめんな。」

日詠先生は穏やかな表情でそう言い残し、ベッドから立ち上がって私に背中を向け病室の出入り口の方へ歩いて行った。



なんか後ろ姿までもカッコイイな~

ここの病院、看護師さんも事務員さんも若い女性が多いから
日詠先生はきっとモテる

こんな人に
命を助けて貰って、眠ってたとはいえ抱き締められたんだ

想い返すだけでも、まだ胸がキュンとする


日詠先生みたいな人に
”好き” とか ”愛してる” とか甘い言葉を囁かれたら
それだけで意識が飛んじゃいそう・・・

いけない
そんなこと、あり得ないのにね
この前のあの夜中のことだって、きっと事故みたいなものだったに違いないよ

私、そんな風に単純だから元カレに三股かけられたりしたんだよね・・・


日詠先生の後ろ姿をじっと見つめながら自分の世界に入り込んでしまう私。



「心配なことがあったら、いつでもおいで。」

病室の入り口で急に立ち止まった日詠先生は私に背中を向けたままいつもよりももっと優しくあったかい声でそう言い残し、病室から立ち去った。



『あり得ないってわかっているのに、勘違いとかしちゃうよ・・』

彼の大きくて広い背中を見つめたままだった私の目からは、あの日、屋上で自ら命を絶とうとして日詠先生に助けられたあの日と同じ温かい涙が頬を伝った。


私、ひとりぼっちじゃないんだ
恋人とか家族とかじゃないけれどちゃんと見守ってくれる人がいる


彼は医師という立場だから見守ってくれているだけかもしれないけれど
すぐ傍で見守ってくれている事は、今の私にとって
こんなにも心強く
こんなにも幸せな事はないんだ


そして私の頭の中では、”いつでもおいで” という彼の言葉が暫くの間こだましていた。