ビリビリビリッ・・・・
「福本さん!!!!!!!」
今度は真里の驚きを隠せない叫び声が聞こえてきた。
自分の頭の中での状況把握スピードが周りの反応についていけていない私。
でも、そちらのほうにも目をやると、福本さんの手で大胆に破られた白い紙が風に乗ってひらひらと宙を待っていた。
「あ~あ、福本さんってば、退職届、破っちゃった~。」
おどけた声を上げながら、その白い紙を拾った真里。
「ナオフミく・・・いえ日詠先生。こんなモノ、私に託すんじゃなくて、この子を託してくれないと。」
福本さんは私のほうに近付いてきて、祐希を抱き上げた。
「伶菜ちゃん・・・日詠先生はご存知の通り、言葉が少ないというか足りない不器用な人よ。だから、今日ぐらいはふたりっきりでゆったりと彼の言葉に耳を傾けてあげて。祐希クンは責任を持って預かるから。」
福本さんはお母さんのような温かい笑顔で私に囁いてくれた。
「さて、日詠先生~。今日の午後からしばらく臨時休暇ってことで。院長には私から言っておくから・・・・・帰ってきたらしっかり働いて貰うから、心置きなくいってらっしゃい♪」
「・・・しっかり働く・・・か。・・・ったく、相変わらず微妙だよな・・」
母には歯向かう息子みたいに憎まれ口を叩くお兄ちゃん。
相手が福本さんだから、心を許しているから
そんな態度見せちゃうんだよね?
「三宅、お前のさ・・・内科医としての実力は俺も知ってるから・・・・また、俺の担当患者を助けてくれな・・・・内科医として妊婦への適切なアドバイスで。」
一方、あんなに悪態をついていた三宅さんにはそんな温かい言葉をかけてしまうなんて
優しいというか
人がいいというか
お兄ちゃんらしい・・
「・・・伶菜、今度こそ行くぞ。」
またまたグイッと手首を掴んだお兄ちゃん。
その瞳からは迷いとか一切感じられない。
退職届は破り捨てられたから、とりあえずこの病院に居られることにはなったみたいだけど、
それでも、今度こそ行くってどこに行くのだろう?



