「痛いっ!・・・何するんですか?」
頭の中に駆け落ちというありえないキーワードが勝手に駆け巡っていた私の耳に突然聞こえてきた音と女の人の叫び声。
その音と声がした方向に目を向けると、そこには眉間に皺を寄せながら頬に手を当てた三宅さん。
そして、そんな彼女を睨みつけながら右手を力強く開いていた奥野先生が立っていた。
「アナタは日詠クンの何を見てきたの?」
「先輩・・・どういうコトですか?」
「本当に日詠クンのことが好きならば、彼の瞳には誰が映っているのかわかるはずでしょう?・・・彼と付き合っていた女性誰もが、その人には敵わないことに気がついて彼から離れていったのをアナタも知ってるでしょう?」
「・・・・・・・・・知ってるわよ。」
三宅さんを諭すように声をかけた奥野先生に対して、突っぱねるような態度を取る三宅さん。
「そんな汚い手を使っても日詠クンが振り向いてくれないことぐらいわかるでしょう?」
「・・・でも、でも・・・彼が・・・」
今にも泣き出しそうな声で呟く三宅さん。
それでも、奥野先生は険しい表情を変えようとはしない。
「だったら、正々堂々と・・・医師という立場で “ウチの病院に来て” と彼を説得しなさいよ!」
「・・・・・・・」
「でも簡単には彼は渡さない・・・・彼はこの病院に必要な人物・・・私にとっても仕事をしていく上で医師として最高のパートナーなんだから・・・・そんな彼をアナタには渡さない。医師として勝負しなさいよ!」
奥野先生・・・この人の一言、一言がかなり重く感じるのはなぜだろう?
きっとお兄ちゃんのことを好きという気持ちを抱きながらも
彼に医師という立場で真剣に向き合っているからなのかな?
でも、奥野先生が言うことが本当ならば
やっぱりお兄ちゃんにはちゃんと意中の女性がいたんだ
なのになんでお兄ちゃんは
私の結婚を阻止してまで、私と祐希と一緒にいることを望んでいるの?



