えっ?!なんの音?
何???
その音がした直後、福本さんと真里の叫び声が聞こえてきた。
私は急いで目に溜まっていた涙を両手で拭ってから顔を上げる。
すると、目の前には呆然とした表情で頬を左手で押さえている康大クン、そしてその向かい側には右手に拳を握ったお兄ちゃんが立っていた。
『お、、お兄ちゃん?!』
その光景から何が起こったのかなんとなく理解でき、叫んでしまった私。
「・・・・・・行くぞ、伶菜。」
祐希を抱っこしたままなのに、私はおにいちゃんに左手を強く引かれた。
えっ?!
お兄ちゃん、康大クン殴っちゃってそのまま逃げるの?
ここはお兄ちゃんの職場
そこで他人を殴ったまま逃げるなんてどう考えてもお兄ちゃんの立場がまずくなる
だってお兄ちゃん
ここでやりたいコト、やらなきゃいけないコト
たくさんあるんでしょう?
この病院の産科医だった私のお父さんでもあり
お兄ちゃんの “親父” である人の信念をここで守り抜きたいんでしょう?
だから、お兄ちゃんがここでこのまま医師として従事できるように
せめて、殴った理由とかを言っておいて情状酌量を求めてたりとかしたほうがいいんじゃ・・・
そう思いながら、お兄ちゃんにまた腕を引っ張られた私。
私の手を引っ張っていたお兄ちゃんは、反対側の手を白衣のポケットに突っ込んで、白い封筒らしきモノを取り出して、何も言わないまま福本さんに差し出した。
「・・・・・もしかして退職届?!・・・・こんなモノわざわざ用意してたのね・・・まあ、アナタに知られてしまった予想外の展開になったけれど、ウチの母親の病院に来てくれるのなら歓迎してお迎えするわ。」
康大クンという人を利用して、私とお兄ちゃんを騙そうとしていたのにも関わらず、それでもまだ悪態をつく三宅さん。
お兄ちゃん、まさかこの病院を辞める覚悟でいたの?
退職届を用意していたっていうことは
私を連れて、ここから消えようとしていたの?
それって、もしかして・・・駆け落ちっていうヤツ?!
駆け落ちってドラマの世界だけじゃないの?!
ありえないでしょ?
だって私とお兄ちゃん・・・兄妹なんだから・・・
パシッ!
えっ? 今度は何?



